グローバル資本主義とデジタルテクノロジーが結びつき、地球を覆い尽くさんとする2019年。インターネットあるいはデジタルファブリケーションに託されたテクノユートピア主義の夢は潰え、かつてのカウンターカルチャーはメインストリームとなった。
デジタルテクノロジーが個人の創造性を促進するツールであるという思想が潰えたのであれば、先人たちの挑戦に敬意を払いつつ、2010年代を20代として過ごしたわたしたちは新たなる夢を描く必要があるだろう。
そのためには、これまでの「独立」や「自律」ではなく、新しいそれを構想する必要がある。「独立〈インディペンデント〉」から連想されるのは、有名事務所から巣立つことや起業といった行為かもしれない。しかし、現在の社会システムを冷静に見つめ、そのシステムの中で自らの主体性を獲得する態度としての独立を、ここでは「NEW INDEPENDENTS」と呼びたい。なぜならアフターインターネットの時代には、巨大プラットフォームに頼るのではなく、自らのプラットフォームによる持続可能な価値循環のモデル構築が可能であり、アブダクションにより生まれた未だ見たことのない価値を定義していくことが重要だと思うからだ。
あらゆることが脱中心され、民主化されつつある2019年に求められるのは、思索〈スペキュレーション〉だけでもなく、試作〈プロトタイピング〉だけでもなく、それらを行き来しながら前進しようとする態度ではないか。
その態度を社会に対して表明する実践者をゲストとして招き、その知をひらこうとするのが、今回の「NEW INDEPENDENTS」シリーズになる。「デザイン」に立脚しつつ、音楽、ものづくり、建築、美術などの分野と知見を交換しながら、そのありうべき姿を少しずつ明らかにしていきたい。2020年代をわたしたちが生きのびるための希望を探すべく、KOCAで議論できればと思う。
島影圭佑(しまかげ・けいすけ)
アーティスト。2013年の首都大学東京在学時、父の失読症をきっかけに文字を代わりに読み上げてくれるメガネ〈OTON GLASS〉の開発を始める。2014年に情報科学芸術大学院大学[IAMAS]に進学し、同年に株式会社オトングラスを設立。IAMASの修了研究では、あなたが望む日本とは何かを問うプロジェクト〈日本を思案する〉を発表。2018年から経営者と兼務の形で筑波大学落合陽一研究室に助教として着任し、多様性と機械学習をテーマとしたプロジェクトJST CREST xDiversityに参画。同年に慶應義塾大学の田中浩也研究室に社会人の博士課程として在籍開始。2017年に金沢21世紀美術館にて企画展「lab.1 OTON GLASS」を開催。2019年に東京都美術館で開催された展覧会にて多様性の発明を同時多発化させるアーキテクチャの構想として〈FabBiotope〉を発表。エクストリームな視覚障がい者をはじめとした多様性の高い人々と共に〈OTON GLASS〉通じて彼・彼女らの多様性を発明する活動、それを可能にする環境づくりに取り組む。
http://bit.ly/2rehsrN
川崎和也(かわさき・かずや)
スペキュラティヴ・ファッションデザイナー/デザインリサーチャー/Synflux主宰
1991年生まれ。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科エクスデザインプログラム修士課程修了(デザイン)、現在同後期博士課程。バイオマテリアルの可能性を模索する「Biological Tailor-Made」、機械学習のアルゴリズムとの共創を目指す「Algorithmic Couture」など、ファッションが持つ未来志向・思索的な創造性を探求する実践を行う。主な受賞に、H&M財団グローバルチェンジアワード特別賞、文化庁メディア芸術祭アート部門審査委員会推薦作品選出、STARTS PRIZE、Wired Creative Hack Award、YouFab Global Creative Awardなど。オランダ・ダッチデザインウィーク/南アフリカ・デザインインダバ招待作家。編著書に『SPECULATIONS 人間中心主義のデザインをこえて』(BNN新社、2019)がある。
10/9 つくるための「自律性」と「持続性」を獲得する
───「これからのインディペンデント」を考える
ホスト:島影圭佑(OTON GLASS)+川崎和也(Synflux)+岡田弘太郎(編集者)
10/29 モバイルハウスとポスト・メタボリズムの建築家
───SAMPOと「移動する生活空間」を考える
ゲスト:塩浦一彗(SAMPO)
11/22 都市の均質化に抗うための、「感性」とデータの幸せな融合
───Placyと「都市の隙間」を考える
ゲスト:鈴木綜真(Placy)
12/13 ポスト・ファブ時代の「自立共生」のための共同体づくり
───Mission ARM Japanと「ものづくり」を考える
ゲスト:近藤玄大(MAJ)
第四回はMission ARM Japan(MAJ)の近藤玄大さんをゲストにお呼びしてレクチャーをしてもらい、その後インタビューをします。前々回、前回は、俯瞰的な都市への視座、そこにどんな場を立ち上がらせるか、その往復、それらをそれぞれの実践者からお話を伺ってきました。MAJの近藤さんの実践は、exiiiという義手づくりからはじまり、そこからそれを中心としたコミュニティ、そして今はシビックエコノミーへと対象が広がっていっています。近藤さんの対象の広がりは、俯瞰というよりも、最小単位としての〈もの〉が紡ぐ〈網〉や〈系〉そのエコシステムに眼差しが向いていっているように伺えます。その視点から今一度〈もの〉の意味を問い直す、再定義しているようにも見える。
1/24 2020年代のカルチャーを耕すための、新たな「食堂」
───CANTEENと「広告と音楽シーン」を考える
ゲスト:てぃーやま+トマド(CANTEEN)
2/21 アートプロジェクトやメディアを自律して運営するために
───コ本やと「コレクティヴ」を考える
ゲスト:青柳菜摘(コ本や)
とある機会があって2010年代はどんな時代だったのかを振り返っていた。網羅的ではなく、自分史として2010年代を捉えると、アフター・インターネット時代、デジタルファブリケーション(以下ファブ)を始めとした、様々な中央集権化したものが脱中心し民主化が成熟した年だったのではないか。具体的に2010年代から始まった自らのOTON GLASSの活動に沿えて振り返るならば(OTON GLASSはファブの成熟によって生まれている)、2009年に3Dプリンターの特許が切れ、それ以降ここ10年で3Dプリンターの低価格化と普及が行われている。現在も自身の事務所で家庭用の3Dプリンターで試作を重ね、最終的に外部の産業用3Dプリンターで出力し、「3Dプリンターで」最終製品として仕上げる、「試作のための」3Dプリンターの活用ではなく。私がOTON GLASSを始めた際に名刺サイズのマイコン、ラズベリーパイ1が販売され、今年2019年にはラズベリーパイ4が販売されその性能は教育用途を超え産業用途への活用事例の増加は増える一方である。以上は主にハードウェアに関する部分であるが、サーバーサイドやWebAPIなどのソフトウェア分野もインターネット革命の勢いのまま成長し、特に機械学習分野の発展は著しい。
今、私たちが生きている時代は、プロトタイプとプロダクトの境界線が限りなく消失している状態にある。この意味は何か?僕はこの状況にクラフトマンの工房と使い手が直接繋がる世界を空夢する。そこには永遠に平行線だったと思われていたクラフトマンの夢想と、資本主義がつくる現実が交わってしまう場所、時空が歪んだスペースが存在するのではないかと考えている。しかしあらゆることの脱中心と民主化によって社会は本当に良くなったのか?2010年代のインターネットの希望と絶望から、私は容易に同意できない。私はこの2010年代を振り返った上で、今必要なアティチュードとして「NEW INDEPENDENTS」をみんなと考えたい。脱中心化された後の今の社会において新たな経営や運営を再構築する必要がある。本質的な制作をするために必要な経営や運営とは何か?歪んだスペースをつくるための技巧を同世代と共に考え、2020年以降にNEW INDEPENDENTSが同時多発化することを狙いたい。
島影圭佑
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今回一緒に共同キュレーターを務める島影圭佑との対話の中で、全5回を貫くテーマを「NEW INDEPENDENTS」と名指すこととなった。新たなインディペンデント───このコンセプトのもとで、ぼくたちはグローバル・データ資本主義のただ中で、いかにして「オルタナティブ」を夢想し、そしてそれを実装することが可能だろうか?
かつて、インターネット文化の延長線上に、デジタル技術が個人の創造性を開放するという思想の隆盛が確かに存在した。そこでは、テクノロジーとソーシャルの潜在力によって、デザインを「民主化」すること。そして、あらゆる人があらゆる物を作り出せるようになるという理想が語られた。しかしながら、昨今のプラットフォームにおける搾取の問題や、ますます複雑化する環境問題など、現在の自然/人工環境は加速度的に変化している。テクノロジーやデザインは個人の創造性に寄与しているか? いや、むしろ「つくりたい者が、どうやったらつくり続けられるのか」。それこそが今、切実な問題となりつつある。ぼくたちは改めて「制作の持続可能性」を試作/思索する必要がある。
ぼくの見方では、本企画のテーマはゲンロン前代表で哲学者の東浩紀氏が提起した「制作と運営の一致」という問題と関連している。それはすなわち、この資本主義の下で、商品あるいは労働「ではない」ものをいかに商品や労働として作るか、という試みである。経済市場においてできるだけ多くのアテンションを得るような商売の開発に取り組むことも、周囲との接続を断絶することで自らの理想主義に邁進することも可能なくらいには、社会は自由だ。しかしながら、ぼくたちが考える「新たなインディペンデントによる創造性」はいずれの原理の外側に存在する。いかなる制作も、運営の原理によって商品に交換されてしまうということを認めつつ、原理の隙間に制作を滑り込ませるための術〈わざ〉について、いまこそ探求しよう。真に自由で新たな創造へのかすかな希望を、「独立・自律〈インディペンデント〉」という言葉に託して。
川崎和也
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グラフィック:村尾雄太
https://yutamurao.com
主催:株式会社@カマタ
今回のイベントに関する連絡先:muraji@atkamata.jp(連まで)